beonaroll ×上野きり(障害馬術選手) 「絶好調な明日のために、私が私にできること」
beonaroll ×上野きり(障害馬術選手)
「絶好調な明日のために、私が私にできること」
“完璧を求めすぎた日々と、プレッシャーの乗り越え方”
「心と体の調子が整う“絶好調(be on a roll)”な明日のために、私が私にできること」をテーマにお届けするスペシャルインタビュー。
今回は障害馬術選手、上野きりさんが登場。5月に行われた障害馬術のイベントにて、アスリートのメンタルケアや、今後の目標などを中心にインタビュー。
試合当日、その一瞬に成果を出すために、普段から行なっているトレーニングはありますか?
「今までの競技人生で、まだ大きな怪我をしたことはないんです。それは幸いなことなんですが、私の場合、自分にプレッシャーをかけすぎてしまうところがあるんです。『完璧じゃなきゃいけない』『馬に怪我をさせちゃいけない」『ミスをしちゃいけない』『私のせいで、能力のある馬が結果を出せない』という風に考えてしまうんです。そう思えば思うほど、それが逆にプレッシャーになって、緊張したり、普段通りに動けなくなったり、心拍数が上がったりして、結局、自分のパフォーマンスにも影響してしまうんですよね。かえって結果を出したいという本来の目的から遠ざかってしまうこともよくありました。』
それをどのように克服しているのでしょうか?
「スポーツドクターの辻󠄀秀一先生という方にご指導を受けながら、メンタルトレーニングをしています。緊張する場面でも常に自分が揺らがないように、期待やプレッシャーに負けないように、何があっても自分らしく生きられるような頭の使い方、思考の癖づけを定着できるように努力しています。」
具体的にはどのようにするのですか?
「一度、そのプレッシャーや不安を横に置いて、『そもそもなんで私は馬に乗っているんだっけ?』って考えるようにしています。そうすると、『好きだから』『楽しいから』『馬と一緒に過ごす時間が幸せだから』っていうシンプルな気持ちに立ち返る。そうすると、『不安にとらわれなくていいんだ』『私は楽しいから乗っているんだ』って思えるようになって、競技でも無理に緊張する必要はなくて、自分らしく、楽しく、この時間を味わおうっていう気持ちになれるんです。
自然体でいられると、結果的にパフォーマンスも上がってきます。こういう思考を癖つけるのは大変でしたけど、今はだいぶスムーズに整うようになってきたと思います。」
実際、成績も上がってきましたか?
「普段はしないようなミスをしてしまう時期があったんですね。ここだけは間違えちゃいけないっていうところで意識しすぎて、逆にそこでミスをしてしまう。そこが自分の弱さだったのですが、それがだいぶ減りました。」
競技中、ミスやアクシデントはどうして起きると思うのですが、その場合、立て直しはどうしていますか?
「障害馬術は、ミスをしてもすぐに次の障害が目の前に来るので、本当にコンマ何秒の世界で判断が求められる競技なんです。障害を一つ飛ぶにしても、私としては「遠くから飛んで、遠くに着地させたい」と思っていたのに、実際には近くから飛んで、近くに着地してしまった。その場合、予定していた距離感とずれてしまうので、着地した瞬間、すぐ一歩前に出して、そのズレをリカバリーするんです。そうやって次の障害に向けて修正していきます。
自分がミスを引きずらないようにすることも大切ですが、そうやって馬にもミスをミスだと思わせないようにしています。結構、馬のメンタルに来ちゃうので。自分は頑張っていたのに落としちゃった、ってへこむんです。だから、『大丈夫、次行こう!』って、お互いに気持ちを切り替えるんです。」
あの魅力についてこうもっとこういうところを見てくれたら面白くなるよとか。こう見てる方にこうなんか伝わるような魅力ってありますか?
「個人競技ではあるんですけど、実際には馬のお手入れをしてくれる専門のスタッフや獣医さんなど、本当にたくさんの人が関わってくれていて、実は“超団体戦”なんです。そういった方たちが、競技中に観覧席から応援してくれるんですが、その熱量を感じながら観戦するのも面白いと思います。
それから、同じコースでも、馬の体格やタイプによってコース取りが違うんです。例えば、「さっきの馬は大きく回っていたのに、今の馬はすごく近くを回ったな」みたいに、同じコースなのに選手の判断や馬の特徴によってコース取りが全然違うので、それを見るのもすごく楽しいと思いますよ。」
今後の目標などを教えてください。
「30代でオリンピックに出場する選手もいれば、40代・50代でベテランとして世界の舞台で活躍されている方もたくさんいます。一方で、今大会では、私が27歳で最年少なんです。チームでトレーナーについてくれている方は23歳、馬の管理をしてくれているグルームも同じく27歳で、私たちのチームはこの世界ではまだまだ “若輩者チーム”なんです。だからこそ、今のうちにたくさんのことを吸収して、少しでもこれからの馬術界に貢献できたらと思っています。
それからもう一つ、この世界って、どうしても「一般家庭からは難しい」と思われがちなんです。でも、私のように、一般家庭からでも選手として競技に取り組めるし、『自分にもできるかもしれない』と思ってもらえる、そんなロールモデルになれたらいいなと思っています。」
上野きり
幼稚園の体験乗馬で馬に魅了され、6歳から乗馬を始める。中学生から障害馬術競技に取り組み、中学3年生で東京国民体育大会に初出場、最年少で2種目制覇。
2018年・2020年全日本ジュニア障害馬術競技会の全日本ヤングライダー選手権競技 (JOCジュニアオリンピックカップ)で優勝し、史上3人目、女子では初の複数回優勝を果たす。2023年に株式会社B-doを立ち上げ、馬の育成・乗馬愛好家・馬術競技者の技術指導、そして馬と社会をより多くの側面からつなげるための施設を建設中。